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基本データ
和名:ハブ(ホンハブ)
分類:爬虫網 有隣目 クサリヘビ科 ハブ属
学名:Protobothrops flavoviridis
大きさ:全長100~200cm(最大250cm)
分布:奄美諸島・沖縄諸島(喜界島・沖永良部島・与論島・伊是名島・粟国島等を除く)
ハブの分布図
ハブの島 奄美
奄美大島は、島全体が密林に覆われています。そこに、いくつかの町が食い込むように存在しているような島です。
奄美大島には、名瀬のように、そこそこ大きく生活に便利な町がありますが、すぐそばに、巨大な密林が迫っています。
人口で沖縄と比較してみると(2019年源氏)、これだけの差があります。
奄美大島 約 60,000人(面積 712 km²)
沖縄本島 約1,400,000人(面積1,207km²)
面積が倍近く違うとはいえ、人口が20倍も差があるとは…。もっとも沖縄も、人口の大部分は那覇などの南部の都市に集中しているため、北部だけを見たら奄美と変わらないのですが…。
とはいえ奄美大島は、沖縄本島の半分以上の大きさのある大きな島にも関わらず、小都市があるだけで島の大部分が密林。
航空写真で見ると、奄美市の中心である奄美市役所のすぐ近くまで密林が迫っているのがよくわかります。
そんな奄美大島なので、ハブと人間は隣り合わせ。ハブの生息数は、やや古いデータですが、5万匹いるとのことで、人間と同じくらいのハブがいるのだそう。
ハブは古来より島の人に恐れられ、咬まれると死ぬか、命が助かったとしても後遺症に苦しむことも多く、ハブ対策は自治体あげての対策がなされています。
奄美のあらゆる施設に、子供たちの書いた「ハブに気を付けよう」ポスターが見られます。まるで交通事故に気を付けよう等の啓発ポスターのように。それだけハブ咬症は奄美において身近で普遍的な事故として認識されてきたのです。
ハブの危険性
【動画】ハブの連続攻撃!
ハブの攻撃シーンを動画撮影しましたのでご覧ください(放映時間:36秒)
ハブは大きなものでは2・5mにもなる日本最大の蛇の一種で、日本の毒蛇としては破格の大きさを誇ります。
「ハブ」と呼ばれる生き物は、日本には現在、奄美群島や沖縄諸島に棲息するハブ(ホンハブ)、トカラ列島に棲むトカラハブ、八重山に棲息するサキシマハブ、外来種として沖縄本島に移入されたタイワンハブの4種に加え、それらのハブとはやや遠い種類のヒメハブが見られます。
このうち、圧倒的に危険性が高く、人々から恐れられているのが、奄美~沖縄諸島にかけて棲息するホンハブになります。
毒の強さと量
実は、ハブの毒の半数致死量(一滴あたりの毒の強さ)は、日本の毒蛇の中でも弱い方だったりします。例えば、ヤマカガシの毒はマムシの3倍、ハブの10倍、などと言われます。しかし、毒の恐ろしさは、毒の成分の強さだけで決まるものではありません。 ハブは、体も大きく毒腺も大きいため、マムシやヤマカガシよりもはるかに多量の毒を出すことができます。
注射針のような長い牙
ハブは非常に長い牙を持っており、さらにこの牙は注射針のようにとても効率的に毒を注入できるしくみになっています。
例えば、ヤマカガシは毒の成分は確かに強いのですが、ヤマカガシは毒牙というよりも、奥歯のつけねから毒がにじみでてくるような方法で相手に毒を注入します。
なので、まず一度に出てくる毒の量が少ないこと、奥歯にあるので深く噛まれないと毒が入らないこと、噛まれてもジワジワと染み出てくるのでハブのように一度でた毒を相手に全部入れることができないということ。
これらのことから、ヤマカガシに噛まれて毒が入って死亡する、というところまで至る確率は、ハブに比べるとずっと少ないのです
ハブの攻撃射程
ハブの恐ろしさは、リーチの長さにあります。全長の3分の2ほどの敵に向けて、上半身をばねのように縮めた状態から一気に噛みつくことができます。
遠くから攻撃し、噛まれると焼けたような痛さが走ることから、現地の人はハブに噛まれることを「ハブに撃たれる」といいます。ハブは、相手に遠距離から着実に毒牙の弾丸を打ち込むスナイパーなのです。
ハブに出遭う方法
もしかしたら「ハブに出遭わない方法…」という表現の方が一般的かもしれませんが、ここは、生き物に出会うためのサイトなので、出会い方について記述します。
1.ハブの出る季節
ハブは外温性動物、つまり、体温が外気温に大きく左右される動物で、寒いと活動できなくなってしまいます。奄美・沖縄は亜熱帯とはいえ冬はそれなりに冷えるので、11月~3月は穴倉などに入って冬眠状態になります。それ以外の時期が活動期間というわけですが、繁殖期であり気候もハブにとってちょうど良い5月後半~6月が最も活発に行動するようです。地元のハブ取りの方の話でも、6月が最も成果が上がる、とのことです。
2.ハブの出る時間帯
ハブの活動のピークになる時間は、午前1時と言われています。ハブは寒さに弱い一方、亜熱帯の日中の暑さにも弱く、日中の熱が十分に冷えた午前0時~1時くらいに最もよく活動すると言われています。
ただし、ハブ駆除の専門家に話を聞いたところによると、日没直後にも、よく出るとのことです。時間帯は、日没直後に一度小さなピークが来てその後でなくなり、深夜0時あたりからピークを迎える、ということです。ハブを探す際は
3.雨の後にハブは出る
時間帯とは別に、雨が降った後にもよく出ます。日中雨が降り、夜に晴れたりする日はハブ観察の絶好の機会になります。夜に雨が降った場合、ピークの時間帯でなくても、雨上がりの直後に出ることが多いです。
雨により地面やアスファルトの温度が下がりハブが活動しやすくなったから、あるいは、雨の直後には餌となるカエルやネズミが活動するのでそれに合わせてハブが活動する、などと言われています。
4.ハブの出る場所
奄美の森は全域がハブの生息域になってはいるものの、頻出する場所、いくら探してもいない場所があります。ハブはネズミを食べるので、人里に近い場所でも見られるのですが、奄美では年間2万匹ものハブが地元民に捕獲され換金されているので、人里に近い場所のハブは、ピークの季節に獲りつくされて減っている可能性があります。
他の生き物もそうですが、いかにもヘビが出そうな森であっても水域が無いとなかなか棲息していることは無く、池や川周辺の森がねらい目です。夜になると道路上にたくさんのカエルが出てきますが、カエルがいるということは近くに水域がある証拠。そういったところにハブは棲息しています。
私は、ハブを数十分のうちに2個体みつけたほどのハブ多発地帯を知っており、地元のハブハンターもうろついていたので、間違いなくハブの多い場所でしょう。ハブは乱獲で減少しているのでネット上で場所をピンポイントでお教えすることができませんが、私のTwitterをフォローまたはYouTubeチャンネルを登録し、コメント等で交流し親しくなれば、ポイントをお話することもあるかもしれません(笑)
※書籍からの知識に加え、個人のフィールド経験、鹿児島県保健所ハブ駆除担当専門家からの聞き取り、奄美大島のハブ獲り歴30年の男性からの聞き取りによる情報を基に、記事を書いています。
ハブには意外と遭わない?!
ハブが20万匹も棲んでいると言われる奄美。しかし、一般の観光客がハブに遭うことはめったに無く、ましてや咬まれることなどほぼ無いと言っていいでしょう。海や観光が目的で奄美に行くなら、ハブを恐れる必要は全くありません。
地元奄美の住民に聞くと、野生のハブを見たことが無い、数十年生きて一度しか見たことが無い、なんて人もザラにいます。好き好んで山に入る人でもなければ、ハブに出遭う機会などそうそうないのです。
冒頭に登場した町に隣接した森なども、昔はハブが多かったことでしょうが、ハブが換金できるため乱獲されてしまったのか、都市の近くにはハブは少ないようです。
私のように生き物を目的に密林に入る人間ですら、ハブを見るのはそう簡単ではありません。ハブ多発ポイントを熟知している現地のハブハンターですら、一晩中歩き回って、ゼロなんて日もあると聞きます。
ヘビのグループは隠蔽体質で、普段はしげみや穴の中に隠れているので、見つけることはなかなか難しいのです。餌などを目当てにはい出てきたところに出会う、といったパターンがほとんどです。
また、蛇は在来の肉食性哺乳類のいない奄美琉球において、生態系ピラミッドの頂点にいます。ピラミッドの頂点の生き物は、個体数はそもそもそう多くはならないのです。
奄美・沖縄でよく見かけるヘビの種類
奄美の蛇でよく見るヘビはアカマタで、ヒメハブもよくみます。ガラスヒバァ、リュウキュウアオヘビなども頻繁に出会うヘビです。これらのヘビに比べるとハブに出遭う確率は圧倒的に少ないです。
生きハブ、1匹3000円で買い取り
ハブ被害を減らすために生きたハブを役所等に持ち込むと1匹3000円(2019.8月現在)で換金されるので、ハブ取りで稼いでいる人も島には数多くいます。
役所や保健所では1匹3000円ですが、「奄美観光ハブセンター」に持っていくと大型個体は、その重量によって4000円、5000円と、買取金額が跳ね上がるそうです。
ハブセンターでは、大型のハブは高値で売れるハブ酒を造る原料になるからです。小さいハブでもハブ酒を作ることはできるのですが、大型個体が入った酒瓶は見栄えもよく、商品価値が高いからだそうです。
ホームセンターで買えるハブ獲りグッズ
奄美ではホームセンターにハブ撮り棒とハブ取りボックスが売っており、それを地元の人が持っていて、小遣い稼ぎをしています。
上は、ハブ獲りボックスとハブ獲り棒の写真です。いずれも8000円近くするそれなりに高価な代物ですが、3匹獲ればもとは獲れるってことで、本気でハブ獲りをするなら高くは無いでしょう。地元の奄美の人は、高枝バサミを改造して、高い木にいるハブをひきずりおろすことのできる自作ハブ獲り棒を作っているそうです。
一方沖縄では、ハブは金になるというよりは危険で駆除すべき存在としか見られてないので、ハブがいたらたたき殺したり、ハブボックスのようなものもなく、ただの袋に入れて運搬したりしているようです。
ハブ獲り名人
私が奄美の山にハブ取りをしていると、深夜12時頃、地元のハブハンターの男性に遭いました。
話を伺うと男性は、秋口からは漁師の仕事があるけど、夏にはないのでハブ取りで金銭収入を得ているとのことです。もう30年もハブ取りをしているそうで、1か月に60匹も採るベテランだとか。お知り合いにはもっと上手がおり、月80匹を採るとか。
奄美や沖縄の山に行ったことがない人は、奄美に行けばハブなんか山にうよいよいると思いがちですが、実はそうそう出会うことはありません。実際、奄美では夜にアマミノクロウサギツアーなんかをやっているほどで、歩くたびにハブが出てきたら、危険でツアーなどできませんからね。環境破壊や、過剰なハブ取りなどで近年ハブが少なくなっているというのもあります。
特に、500gを超える大型個体は、1990年代以降、急速に見られなくなったとのことです。
おすすめハブ書籍「毒蛇ハブ」
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