ヤマカガシ(爬虫網 有隣目 ヘビ亜目 ユウダ科 Rhabdophis tigrinus)

和名 ヤマカガシ(山楝蛇)
分類 爬虫網 有隣目 ユウダ科
学名 Rhabdophis tigrinus
全長 70~150cm
分布 本州、四国、九州、佐渡島、隠岐島、壱岐、五島列島、種子島、屋久島など

ヤマカガシのすみかとくらし

ヤマカガシのいる場所・時期

ヤマカガシは北海道を除いた日本本土(本州・四国・九州)と周辺の島などに棲んでおり、春先から11月中旬くらいまで、水田や湿地、川など水辺でよく見られます。また、山道で出会うこともよくあります。野外では最もよく見かけるヘビの一種です。

毒蛇ヤマカガシが水田で泳ぐ
水田を泳ぐヤマカガシ

ヤマカガシが食べるもの

カエルを主食とし、その他、魚、ドジョウ、オタマジャクシを食べます。トカゲやサンショウウオを食べた例もあります。

水辺から離れて大型のヒキガエルを食べることもあり、山地のヤマカガシが大きいのはこの影響があると言われています。ヒキガエルには毒があるので、他のヘビは敬遠しますが、ヤマカガシはむしろ好んでヒキガエルを捕食します。

ヒキガエルを呑んだヤマカガシ
大型のヒキガエルを呑んだヤマカガシ(東京都 5月)

オタマジャクシを狙うヤマカガシの幼体

ヤマカガシという名の由来は?

古代日本において、蛇のことを「カガシ」といいました。なので「山に出るヘビだからヤマカガシ」という意味になるでしょう。

しかし、ヤマカガシはたしかに山にいるものの、他のヘビも山にいますし、ヘビの中で特に山に多いヘビというわけではありません。どちらかといえば田んぼなど湿地帯でよく見られるヘビなのに、なぜヤマカガシという名が与えられたのでしょうか。歴史文献から考察してみましょう。

「ヤマカガシ」という名称は、平安時代に編纂された『和名抄』という書物(今でいう漢和辞典・百科事典)に「夜萬加々智(やまかがち)」として登場します。

この書物では、中国でいう「蟒蛇(ぼうじゃ・うわばみ。大きなヘビのこと)」の和名に「夜萬加々智」を当てています。「蛇之最大也」との記述もあり、「大蛇」を指すものとして読み取れます。

なぜ、特別大型の種でもないヤマカガシに、大蛇の称号が与えられたのでしょうか。これに関して、南方熊楠(1867~1941)が『十二支考 蛇に関する民俗と伝説』の中で触れており、「古代の日本にはうっそうとした山があり、そこには老熟の巨大ヤマカガシがいたのかもしれない」と記述しています。

近現代でも、「4mものヤマカガシが出た」など、巨大ヤマカガシ発見の話が日本各地であります。ヘビというのはとにかく誇張されやすい生き物ですので、それらの話の大半は信じがたいものばかりですが、しかし原生林に覆われた古代日本の山奥であれば、今では考えられないほど巨大な個体が棲んでいたとしても(4mは無いにしても)、ありえない話ではないかな、と思います。

「ヤマカガシ」という名称は「山に棲むヘビ」という意味ですが、単に山に棲むヘビというより、「山奥に棲む大蛇」という意味から来た名称、と考えることができるでしょう。

ヤマカガシの大型個体
深山幽谷に潜むヤマカガシの大型個体

ヤマカガシの毒について

ヤマカガシの毒牙は、口の奥にある

ヤマカガシは、牙そのものに毒があるのではなく、奥歯の根本に毒腺があり、そこから毒が出ます。奥歯の牙は長くなっており、これで相手の皮膚に突き刺し、毒腺から出た毒が注入される仕組みになっています。このため、深くかまれなければ毒が入らないことが多いです。

また、毒牙の注入効率の良いマムシやハブの注射針式の牙(管牙)や、コブラなどの歯の溝を伝わって毒が注入されるタイプの牙(溝牙)と比べると、ヤマカガシの毒は注入効率が良くなく、毒が大量に噛まれた人の体内に入る可能性が低いのです。

ヤマカガシの毒牙

ヤマカガシの毒の強さ

毒の強さの基準の単位「LD50」は、「半数致死量」と言います。半数致死量とは、毒をマウスなどの実験動物に投与した場合に、その実験動物の半数が試験期間内に死亡する用量のことで、投与した動物の50%が死亡する用量を体重当たりの量(mg/kg)としてあらわしたものです。これを基準に有名な日本の毒蛇マムシ・ハブ・ヤマカガシの3種で毒の強さランキングで比較してみると、以下のようになります。

  • 第1位:ヤマカガシ LD50=0.27 (mg/kg)
  • 第2位:マムシ LD50=1.32~1.70 (mg/kg)
  • 第3位:ハブ LD50=2.50 (mg/kg)

この数値から計算すると、ヤマカガシの毒の強さはマムシの約3倍、ハブの10倍弱の強さということになります。

ヤマカガシの毒 咬症例(噛まれた例)

1972年と1984年に中学生がヤマカガシに噛まれて死亡するという痛ましい事故がありました。

また、近年話題になった例としては、2017年7月29日、兵庫県伊丹市の若松公園で小学5年生(10歳)の男子児童が手首を噛まれ、一時意識不明の重体となる事故がありました。幸い、翌日30日には意識が回復し、命に別状はありませんでした。

この事故の際には、男児の友人が、噛んだヘビをリュックに入れて、被害男児のお母さんに渡すという見事な対応をしています。おかげで、ヘビの種類が「ヤマカガシである」と特定できたのが、血清治療の対処に役立ったと思います。

このように深く咬まれると非常に危険

首の付け根にも毒がある

ヤマカガシの首のうなじにあたる部分の皮膚の下には、頸腺という毒腺があり、毒牙とはまた別の、第二の毒となります。

これは、防御用の毒で、強く刺激すると毒が飛び散るというものです。皮膚には、この毒を噴射させるような穴はなく、皮膚が破れることで出ます。なので、この毒を使う時は、首のあたりを攻撃されダメージを受けるなど、ヤマカガシにとって危機的な状況ということでしょう。これが目に入ると障害が起こるなどの害があります。

噛まれたくないからとヤマカガシの首を強くつかむのも危険です。

実はこの頸腺の毒は「ブフォトキシン」と言って、ヤマカガシの大好物であるヒキガエルの毒です(ブフォ=ヒキガエル トキシン=毒 の意味)。ヤマカガシは元々この頸腺の毒は持っておらず、ヒキガエルを食べることで、その毒を体内に吸収し、頸腺にため込んでいるのです。

ヒキガエルは体から毒を出す。特に耳栓から多量の毒を出せる

ちなみに、ヒキガエルが生息していない島など隔絶された地域では、ヤマカガシは頸腺の毒がありません。

しかし、母親がヒキガエルから得た毒を備えていた場合、その子にも毒が「継承」されるということが近年の研究によりわかりました。母蛇が首の毒を備えて妊娠・産卵した子は、ヒキガエルを食べていなくても、生まれた時点ですでに首の毒を備えていることが多い、ということです。

ヒキガエルが周囲にいない環境であると、ヤマカガシはわざわざヒキガエルを捕食するために遠征するような行動も見られるようで、本能的にこの「第2の武器」を得ることを求めているのではないかと思われます。

ヤマカガシを見つけたらどうする?

どうもしなくて良い

毒蛇として恐ろしげに語られることが多いヤマカガシ。

ヤマカガシは、たしかに強毒を持つヘビであり、人を殺傷する強力なポテンシャルを秘めています。しかし、それを発揮することはほとんどないので、必要以上に恐れなくて大丈夫です。

どうしてもの時は、スネークフックを使う

しかし、どうしてもいてもらっては困る場所に居座っているなど、ヤマカガシを扱わないとならない場合もあるかもしれません。その際には、慣れない人間が素手で触るのは危険なので、スネークフックを使いましょう。

スネークフックとは、ヘビを捕獲したり、ヘビを移動する際に使う先の曲がった棒のことです。これにヘビの体をひっかけて、ヘビを移動することが可能です。

先をつかって、ヘビの頭をおさえつけたりすることもできますが、ヤマカガシの場合は前述のとおり首に毒があり、万が一飛び散って目に入ったら危険なので、やめておきましょう。

上記の品は折り畳みができて便利です。メーカーが有名ではなく、作りがイマイチなのですが、安いのが魅力。海外の大型ヘビや、ヘビ以外に重いものをひっかけるとなると強度が不安ですが、いざという時のために持っておく程度なら良いでしょう。


上記の品はビバリアというきちんとしたアクア系メーカーさんの商品。高価ですが、最初の2本よりもこちらの方がしっかりとした作りです。



上のスネークフックはスタンダードなタイプで、折り畳みしないタイプです。強度がありますし、先端が樹脂になっているのでヘビを固定しやすい(ヘビが滑らない)。

ただ、単なる金属棒の割に高価で、しかも折り畳みできないのでアウトドアで持ち歩くには結構邪魔です。ヘビ以外に、フィールドで色々なものをつっつくのには便利です。

ちなみに、ヘビを挟むような道具(スネークトング)もよく売られていて、中にはヘビを逃がさないようにハサミがギザギザしたものがありますが、ヘビの身体を痛めてしまうので、できれば使わない方が良いです。そこまで完全にヘビに動きを抑えなくても、マムシやヤマカガシ程度なら十分に扱うことができます。

蛇除けスプレーは有効か?

「蛇除けスプレー」なるものが販売されており、しばしばこのような製品をヘビよけに野外に持っていくように勧める場合もありますが、ヘビ対策のためにそのようなものを持ち歩く必要は全くありません。

なぜなら、こちらからヘビを見つけて手を出さない時点で安全であり、ヘビがわざわざ襲い掛かってくることはないからです。相手がクマであれば、襲ってくるクマめがけてスプレーで撃退する意味はあるかもしれませんが、相手がヘビの場合、人間めがけてにょろにょろと這ってきて食いついてきたりしません。

ヤマカガシはおとなしいヘビ

ヤマカガシは比較的おとなしいヘビです。もちろん、つかんだりいじめたりすると、時にはコブラのように首を平たくし怒りますし、かみついてきたりしますが、こちらが手を出さなければ攻撃してこないし、ただ逃げていくだけです。

歩いていて、気づかずにヤマカガシに近づいてしまい噛まれる、といったケースもほぼ無いと言っていいでしょう。マムシであれば、射程圏内に人が来ると反応してかみついてきますが、ヤマカガシの場合は、草むらなどで靴をはいて歩いていて噛まれることはほぼありません。

ただし、草刈り中の男性が噛まれて危険な状態になった、というまれな事例もあります。しかしこのようなケースは、ハブやマムシでは多いものの、ヤマカガシでは珍しいケースといえます。

自然でヤマカガシを見かけてもむやみに怖がったり騒いだりせず。優しく観察しましょう。ましてや、ヤマカガシは危険だからと、棒で叩き殺すようなことはやめましょう。ヤマカガシは、里山環境の減少と共に年々数を減らしており、むしろ保護すべき対象です。

慣れない人が、上の画像のような命知らずなことはしてはいけません。しかし同時に、人を積極的に襲う蛇ではないこともこの画像でわかっていただけるでしょうか。

画像でヤマカガシを持っているのは、数々の毒ヘビを扱ってきた人物です。慣れない人が画像のようにヤマカガシを持つのは絶対にやめましょう。慣れない人が怖がってヤマカガシを持つと、恐怖のあまり無駄に強く握ったりするため、ヤマカガシも神経質になって噛みついてきます。

ヤマカガシに噛まれたら

ヤマカガシの血清

ヤマカガシの血清は、群馬県の日本蛇族学術研究所にしかおいてありません。ヤマカガシの咬症件数はとても少ないため、血清を製造しても採算がとれないからです。また、血清を製造するには数百匹捕獲して毒を採取しなくてはならず、個体数が減少しているヤマカガシを大量に集めることも困難であるという理由もあります。

血清を開発した、日本蛇族学術研究所

ヤマカガシの血清を開発したのは、日本蛇族学術研究所(通称:へび研)。ヤマカガシに噛まれたら、病院に行くことになりますが、必ずここに相談することになります。なぜならヤマカガシの血清は、ここにしか置いてないからです。

ヤマカガシの血清は、1989年の中学生の死亡事故の際、遺族の寄付金、そしてへび研の強い想いから、試作品が開発されました。

1998年には当時の厚生省の研究班ができ、へび研と共同で開発し、1000回分以上のヤマカガシの血清が作られたのです。

血清ができてから、ヤマカガシ被害は20件ありましたが、治療が遅れた1名以外に死亡例はありません。

しかし、血清が作られてから20年以上が経ち、作り直しも考えなくてはならない時期に来ています。しかしへび研は、隣接するヘビ園「ジャパンスネークセンター」の収益を中心に経営しており、なかなか厳しい状況とのこと。

へび研が運営できなくなったら、ヤマカガシに噛まれた場合、そのまま死に直結するという恐ろしい状況になってしまうかもしれません。レアケースとはいえ、ごく普通にいるヘビなので、事故はどこでも起こりうるわけで、けして見過ごすわけにはいかない問題です。

ポイズンリムーバー(毒吸出し器)

万が一毒蛇に噛まれた時のために、ポイズンリムーバーという毒吸引器が販売されています。確率的に低いヤマカガシ咬症のためにこれを常に持ち歩くのは難しいかもしれませんが、お守り替わりに持っているのもよいかもしれません。スズメバチ等の被害にも使用できます。

噛まれてすぐの場合は若干の効果があり、毒量を減らし被害を多少軽減できる可能性がありますが、少しでも毒の被害を減らすことが目的であり、これだけで解毒はできないので、医療機関を受診しましょう。

ナイフ等で切って毒を出すのが良いという人もいますが、切ったところで毒はほとんど出ないので意味がないどころか、毒が入ったことで抵抗力が弱まっているので、切った所が化膿する可能性が高いです。ポイズンリムーバーを使用しましょう。

以下の黄色いボディの「エクストラクター」は、筆者も所持しているポイズンリムーバーの定番商品になります。吸引力が強く、信頼できる製品です。

参考記事:マムシについて

マムシに噛まれたらどうする?対処法や注意点を解説

ヤマカガシの飼育はできない

ヤマカガシは、動物愛護法の特定動物に指定されており、ペット目的では飼育できません。

筆者が子供の頃は指定されていなかったので、家で飼っていました。はじめて捕まえたヘビがヤマカガシの子供でした。

手に持った時のなめらかな鱗やつぶらな瞳のなんともいえないベビーヤマカガシのかわいらしさは今でも忘れません。ヤマカガシの観察日記を夏休みの自由研究にしていました。

繰り返しますが、現在ではヤマカガシの飼育は法律で禁止されています。

かわいらしい子ヤマカガシでも毒がある

参考文献・おすすめ書籍

山溪ハンディ図鑑 増補改訂 日本のカメ・トカゲ・ヘビ(山と渓谷社)

ヤマカガシの地域変異の写真が掲載されているので参考になります。2019年に改訂され内容も新しく、解説もわかりやすい。筆者がブログを書く際には、この本を常に脇においています。

毒ヘビ全書(グラフィック社)

A4サイズの大きく厚みのある本。美しいヤマカガシの写真1枚で丸々1ページ、詳細な解説で1ページとボリュームも凄い。「毒蛇」という生き物全般をあらゆる側面から学術的に徹底解説。写真やレイアウトが美しく、パラパラとめくっているだけで幸せになれる本(毒蛇好きは)。図鑑として完璧な出来。筆者の家宝。

野外における危険な生物(日本自然保護協会)

毒蛇に噛まれた際の対処法など6ページにわたり解説し、その他日本の各種毒蛇それぞれの解説もあります。クマやスズメバチ、毒のある植物やキノコまで、他の危険生物についても網羅的に記述されています。アウトドア派にはおすすめ。内容が改訂されているものの初版は古いので、全体的な古臭さはあります。長きに渡って使われている実績ある本ともいえます。公益財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員の資格講習を受けた時にテキストとして購入。以後観察会等では、この本を頼りに、野外での危険生物対応をしています。

危険・有毒生物(学研の図鑑ライブポケット)学研プラス

DVD付 危険生物(小学館の図鑑 NEO)

学研と小学館の図鑑。子供の学習用に最適ですし、国内一級の学者たちが携わっているので、内容も充実。大人にもおすすめできます。