マムシに噛まれたらどうする?対処法や注意点を解説

マムシ

年に1000~3000名の人を噛み、うち5~10名ほどを死にいたらしめている、身近な危険生物・マムシ。

死亡率自体は高くはないものの、その後の後遺症や、入院による生活の影響や高い入院費用(一例:10日間入院、入院費・治療費用20万円・その後の通院)など、命が助かっても、噛まれた人の生活への影響はとても大きいものとなります。

本記事では、マムシに噛まれないようにするにはどうするか、またマムシに噛まれた場合どうするか、について解説します。

※本記事で「マムシ」とは、ニホンマムシ(Gloydius blomhoffii)を指します。
※マムシの場合「咬まれた」の表記が適切ですが、一般の方が読みやすい「噛まれた」で統一しています。

マムシはどんなところに棲んでいるか

水辺を中心に田畑や山地まであらゆる環境に棲んでいます。森の中にもいますが、開けた場所でより多く見られます。また、人家の多いところよりも自然環境が良好に保たれているところに多いです。

普段は物陰や穴に隠れています。マムシの生息域で田畑に放置してある板やトタンをひっくりかえすと、マムシがいることがあります。一度に複数匹固まっていることもあります。

マムシ
板をひっくりかえしたら、4匹のマムシがいた!

キャンプ場があるような自然豊かな河原の付近にもマムシは多く生息しています。普通にレジャーを楽しむ分には、マムシに会うことはそう多くはありません。しかし万が一噛まれた場合には大変なことになるので用心しましょう。

マムシの出る時期と時間帯

マムシの活動時期は、地域にもよりますが主に4月~11月。

活動時間帯は主に夜。「マムシ注意!」の看板のある場所でも意外とマムシを見かけないのは、夜行性であることも一つの理由です。しかし、冬眠前後の春と秋には、栄養を大量にとらなくてはいけないため、日中に出てくることがよくあります。

また8月上旬頃は妊娠する時期で、子持ちの母マムシがお腹の子供を温めるために日中によく出てきます。マムシは直接子供を産む胎生のため、温めることで子供の成長をうながすのです。

マムシの幼体(赤ちゃん)
マムシの幼体。尾が黄色い

マムシの毒と危険性

マムシ注意の看板。「まむし」の文字は、大抵行書体で達筆だ

実は、マムシの毒はハブの5倍の強さがあるといわれます(ハブの毒の5分の1の毒量でハツカネズミが死んだという実験結果による)。ただし、ハブはマムシよりはるかに大型で注入する毒が多く、また攻撃範囲も広いので、やはりハブの方がずっと危険性は高いです。

狂暴なイメージのあるマムシですが、ニホンマムシは意外とおとなしいです(対馬に棲むツシママムシはニホンマムシより気が荒い)。マムシが積極的に人間に襲い掛かってきたりすることはありません。

たまに「マムシは跳んでくる」という人の話を聞きますが、マムシはジャンプができません。

危険なのは、気づかずにマムシの攻撃範囲内に手や足などが入ってしまった時です。マムシは待ち伏せ型のハンターであり、かつ近寄ってきた敵に毒牙による「防御のための攻撃」を行う生き物です。人間側からマムシに近寄りさえしなければ基本的に噛まれることはありません。

マムシに噛まれないようにするには

まずは、マムシに噛まれないようにすることが大事です。

歩行中の咬症を防ぐには、厚手の長靴や登山靴をはいていればまず大丈夫です。マムシは小型のヘビなので、地表にいるマムシはヒザより上に牙が届くことはまずないでしょう。マムシのいそうな場所では、裸足やサンダルなどで草むらに入ったりしないようにしましょう。マムシの射程距離は全長の3分の1程度なので、マムシから50㎝も離れていればまず安全です。

しかし、いくら長靴をはいていても、腰かけたり時に噛まれた、手を岩についたときに指をマムシに咬まれた、などの例があるので注意が必要です。がけを登ったりする際には、手指を置く場所をよく確認しましょう。

マムシ
日中に活動していたマムシ

マムシに噛まれたら

病院に行く(または119番に電話)

マムシの毒を自分で治療することはできないので、病院に行くことが必須です。医師の判断により血清を使った治療が行われます。

病院に行く際には、焦って走ったりしないようにしましょう。心拍数が上がって毒のめぐりがかえって早くなり、危険です。マムシに噛まれた場合の致死率自体は0.1%程度と低く、またコブラなどの神経毒を主体とするヘビと比べて毒のめぐりが遅いので、落ち着きましょう。

ただし顔や首のあたりを噛まれた場合は腫れて窒息する恐れがあるので、状況に応じて急ぐ必要もありますが、決して走らないようにしましょう。

深い山中の場合、病院に行くのには相当の時間がかかるのですぐに病院に連絡し、指示を受けましょう。病院の電話番号がわからない場合は、119番に電話しましょう。

場合により、救急車・担架を使い救助が行われたり、山中における被害ではドクターヘリが出動する場合もあります。自分のいる場所を緯度・経度を含めしっかり伝えられるようにしましょう。

噛まれたヘビの種類を把握する

北海道の毒ヘビはマムシ1種類、本州・四国・九州に住む毒蛇はマムシとヤマカガシの2種類になりますが、使う抗毒素血清が違うので、少なくともヘビの見た目を覚えておくべきです。余裕があればですが、遠くからでもよいのでスマホのカメラで撮影しておくと良いです。もし可能であればヘビの種類を判別しましょう。

無毒蛇アオダイショウの幼体はマムシに似ており、間違える人が多いです。マムシとアオダイショウの幼体の写真を並べて比較してみましょう。

こうして並べて比較してみると、かなり違うことがわかると思います。マムシは大きな銭型模様があるのに対し、アオダイショウ幼体はハシゴ状の模様になっています。またマムシは瞳がネコのように縦長いですが、アオダイショウは丸い瞳です。

ヤマカガシ(東京都産)

こちらはヤマカガシの写真です。マムシと間違えることはなさそうな派手な色彩ですが、ヤマカガシは地域や個体により色彩がかなり異なり、黒っぽいタイプや茶色いタイプがいるので、色だけで判断し種を間違えないように注意しましょう。

器具(ポイズンリムーバー)による吸引

ポイズンリムーバーという毒吸引器が販売されています。確率的に低いマムシ咬症のためにこれを常に持ち歩くのは難しいかもしれませんが、特に山中などに行く際には、重いものでもないのでお守り替わりに持っていきましょう。

噛まれてすぐの場合は若干の効果があり、毒量を減らし被害を多少軽減できる可能性があります。しかしあくまで少しでも毒を減らすのが目的であり、ポイズンリムーバーだけで解毒はできないので、医療機関を受診しましょう。

「毒に対して処置をした」ことで不安を取り除く効果もあります。

ナイフ等で切って毒を出すのが良いという人もいますが、切ったところで毒はほとんど出ないので意味がないです。それどころか、毒が入った抵抗力が弱まっているので、切った所が化膿する可能性が高いです。ポイズンリムーバーを使用しましょう。

以下の黄色いボディの「エクストラクター」は、筆者も所持しているポイズンリムーバーの定番商品になります。吸引力が強く、信頼できる製品です。

個人的には、荷物を減らしたいフィールドワークにおいて箱がかさばるのが難点。なので、この箱は自宅保管用にして、持ち出しの場合は百均などで購入したケース等に入れるのが良いです。毒吸出し口が数種類あるので、必要なものだけを携帯した方が良いでしょう。

以下の製品は、前述の黄色い定番タイプのコピー商品的なものだと思われますが、安価なのが魅力で、また最も売れているポイズンリムーバーのようですが、上記の黄色いタイプに比べるとやや壊れやすいという評判です。

強くしばらない・冷やさない

強くしばると、血流が止まってしまうことで組織が死んでしまい、後遺症が残ったり最悪の場合手足切断せざるをえなくなったりします。治療まで時間がかかったり噛まれた人が不安になっている場合は、幅の広い帯のようなものでごく軽くしばり(細いものでしばると血が止まって危険)、かつ10分に一度は帯をゆるめて血液を一度流すようにします。

また、痛くて腫れるのでつい冷やしたくなりますが、これは組織破壊につながり逆効果だと言われています。

マムシがいたら捕獲すべきか(捕獲器具)

危険なので、触らずそっとしておきましょう。咬症の多くは、マムシを扱っている時に起こっています。

しかし、どうしてもマムシを移動しなくてはいけない場合は、以下の器具を使いましょう。

上のスネークトングは、マジックハンドのような構造になっており、ヘビをつかむことができます。マムシは攻撃範囲が短いので、トングも短いもので十分です。上の70㎝くらいのタイプのものが、3000円前後で販売されており、ネット通販では最も安いようです。

難点としては、ヘビを傷つけてしまう可能性があることです。マムシは、その有毒のイメージとはうらはらに、地域によっては絶滅危惧種に指定されています。何よりマムシがかわいそうですしね。

上の製品はスネークフックといい、先端の曲がった部分でヘビの体をひっかけて移動するものです。最初の製品がノーマルタイプ、2番目の製品はアンテナのように折りたたんでコンパクトにできるものです。

また、フックの先端を横にしてマムシの頭を押さえこんでしまえば、首を補ていし、マムシをつかむこともできなくはないです。

筆者は、マムシ駆除依頼の業務の際に、このフックで頭を抑えて首をつかんで捕獲しています。

しかし、マムシをつかむ力加減なども慣れないとわからないですし、またマムシの長い牙が、思わぬ形で指に刺さることもあります(例えば、マムシの下あごを貫通して指に刺さるなど)。

とにかく、用もないのにマムシに触れることは避けるべきです。

おすすめの書籍

野外における危険な生物(日本自然保護協会)

日本自然保護協会による危険生物の本。筆者は、自然観察指導員の資格を取得する研修で購入しました。カラー写真などは無く白黒で見栄えはしないのですが、実用に徹したその内容は一級品。協会が「自然に親しむ人が一人でも多くなってほしい」という思いから書き上げられた、危険生物を知るためのバイブル。

毒蛇に噛まれた際の対処法など6ページにわたり文字でびっしりと解説し、その他日本の各種毒蛇それぞれの解説もあります。クマやスズメバチ、毒のある植物やキノコまで、他の危険生物についても網羅的に記述されています。全体的に古臭い感じは否めませんが、それだけ長く愛用されているということでしょう。

危険・有毒生物(学研の図鑑ライブポケット)学研プラス

DVD付 危険生物(小学館の図鑑 NEO)

学研と小学館の図鑑です。

子供用とあなどるなかれ、執筆者は日本を代表する研究者がずらりとならび、子供から大人までが楽しみながら危険生物について学ぶことができます。こちらは非常にきれいなカラー写真が使用されているので、マムシやその他危険生物について視覚的に学ぶことができます。

毒ヘビ全書(グラフィック社)

最高の毒ヘビ本。日本の毒ヘビを含む世界中の毒ヘビのことをこれでもかというくらい詳しく解説しています。

世界中の写真家により撮影された恐ろしくも美麗な毒ヘビの写真と、専門的でありつつも一般でも楽しめる解説を盛り込んだ、気合の入った一冊です。

5000円弱と安くはないのですが、個人的にはこれだけのボリュームをつめてこの値段は、ほとんど慈善事業のレベルなのでは?と思ってしまいます。全書の名にまったく恥じない、とんでもない内容です。これはヘビマニアやヘビ専門家でなくても、毒蛇になんらかの興味を持った人は買うべき本です。

写真集・専門書・読み物、この3つがすべて合わさり、それらのいずれもに全く妥協を感じない、といった本です。

サイズは結構大きく重いです。本は大きいのに文字はそれほど大きくはないですが、それだけ内容がぎっしりとつまっているということです。

終わりに

マムシは人命をうばう危険な生き物であると同時に、自然環境が保たれていないと生活することができない生態系の重要な一員でもあります。

マムシのいる自然に入るときは、マムシの生活圏に入らせていただいているんだ、という気持ちを忘れず、安全かつ謙虚に、フィールド・アウトドアを楽しみたいですね。