ヤンバルクイナは、世界でも沖縄本島北部(やんばる)にのみ生息している希少な鳥です。
1981年(昭和56年)に新種と発表され、世間を驚かせました。
また、2020年には沖縄本島北部(やんばる)は世界遺産に登録され、ヤンバルクイナはその象徴的存在となっています。
ヤンバルクイナは、沖縄本島で独自の進化を遂げ、鳥なのにほとんど飛ぶことができないという、独特の生態を持っている鳥です。
本記事では、ヤンバルクイナが飛べない理由についてお話しします。
目次(クリックで各項目にとびます)
ヤンバルクイナが飛べない理由
ヤンバルクイナの祖先は飛べた
ヤンバルクイナはほとんど飛ぶことができない鳥ですが、実はヤンバルクイナの祖先は飛ぶことができたのです。
今から約6000年前、現在の沖縄本島に飛翔能力のあるヤンバルクイナの祖先が飛んでわたってきました。
しかし、沖縄本島には天敵となる「肉食哺乳類」がいなかったため、飛ぶ必要があまりなく、そのため翼は小さくなり、はばたく筋力が退化し、飛べなくなってしまったのです。
元はナンヨウクイナという東南アジアなどに生息する飛べるクイナ(飛べない亜種もいる)の一派から分かれて、環境適応により飛ぶ能力を捨てて、ヤンバルクイナになったのです。
飛ぶ必要がなくなったヤンバルクイナ
鳥は、飛ぶためには大きなエネルギーが必要です。飛ぶ必要がないのであれば、はばたく筋力・飛翔能力はエネルギーの無駄なのです。
ヤンバルクイナは飛べませんが、その分、ヤンバルクイナの祖先の種より大型化しています。足もがっしりと進化し、時速40㎞で地上を走ることができます。
ヤンバルクイナは「鳥なのに飛べない」などと、悲哀を交えて語られることがしばしばありますが、「飛ばない分、地上により適した形態に進化した」ともいえるでしょう。
ちなみに、クイナの仲間は世界で約130種ほどいますが、そのうち約30種は飛べなくなっています。クイナの仲間は、孤島に生息するようになると、すぐに飛ぶ能力を捨ててしまう傾向にあるようです。
飛べないヤンバルクイナの天敵
天敵・ハブ
さて、沖縄本島には肉食哺乳類がいないとはいえ、ヤンバルクイナにまったく天敵がいないわけではありません。
沖縄本島には、毒蛇のハブがいます。さらに、そのハブすら食らうという大型の無毒蛇・アカマタもいます。
これらの大型ヘビは沖縄において、本来肉食哺乳類が占めるであろう生態系ピラミッドの頂点に、肉食哺乳類にとって代わって君臨しており、ヤンバルクイナを捕食します。
捕食者に合わせ、不要な飛ぶ力をカット
しかしヤンバルクイナは、この大型ヘビたちから逃げるために飛ぶ必要はなかったのでしょうか?
「飛ぶ必要がない」とまでは言えません。しかし、ヘビの捕食のための攻撃は基本的に、まちぶせからの高速の一撃。
肉食哺乳類のように、高速で獲物を追いかけてくるわけではないので、エネルギーを消費してまで空高く飛んで逃げていく必要はあまりありません。
それよりも、ヤンバルクイナが翼の力や飛ぶ能力を捨てて脚力や大型の身体を手に入れたことで、未成熟のヘビや小型個体のヘビでは、ヤンバルクイナをエサにするのは難しくなりました。
また、ヤンバルクイナは木の枝にとまって眠る習性があります。これは、寝ている時にヘビが近づいてきた時に、枝がゆれて気づいて逃げることができるよう進化したと考えられています。
ヘビはヤンバルクイナを追いかけて捕まえるような能力を持っていないので、ヤンバルクイナはヘビの存在に気づきさえすれば、ヘビから逃げることができるのです。
もちろんそれでも、ヤンバルクイナはハブやアカマタなど大型ヘビのエサのメニューにはなっています。
ですが、ヤンバルクイナは食いつくされることなく、捕食者・被捕食者間の絶妙なバランスを保ちながら、今日まで沖縄本島の生態系の一員として種をつないできたのです。
絶滅危惧種ヤンバルクイナ
マングースの脅威
1910年(明治43年)、ネズミとハブの駆除を目的に、マングースが沖縄の自然に放たれます。このことが、ヤンバルクイナに悲劇をもたらします。
肉食哺乳類がいない島に適応し飛翔力を失ったヤンバルクイナは、肉食哺乳類から逃げるようには進化していません。
そんなヤンバルクイナを、肉食哺乳類であるマングースは片っぱしから食い尽くしていきます。平成17年の調査では推定720羽しかいなくなり、絶滅寸前にまで追い込まれてしまいました。
しかしその後、環境省による駆除がすすみ、マングースの生息域・生息数は減少し、ついにあと一歩でマングース根絶、というところまできています。
それにともない、ヤンバルクイナの生息数も回復してきました。朝方にやんばるの道路を走れば、最低でも1羽に出会うくらいには普通に見かけるようになりました。
ノネコや交通事故も脅威
しかし、マングース以外にも問題はいくつもあります。
例えば、野生に棲むようになった猫(ノネコ)は、ヤンバルクイナを襲って食べてしまいますが、人間に親しみのある「猫」という動物だけに、その点に関して言えばマングース以上に対策の障壁があるといえます。
また、交通事故の問題などもあります。ヤンバル地域の道路を走っていると、ものすごいスピードで駆け抜けていく自動車に頻繁に遭います。これらがヤンバルクイナを轢いてしまう例は多くあります。
このように、ヤンバルクイナにとっての脅威はまだまだたくさんあります。
地上に適応し進化したヤンバルクイナは、けして飛べなくなってしまった「残念な鳥」などではなく、やんばるの自然に適応するため、飛翔というエネルギーの無駄を省き地上に特化した鳥です。
とはいえ、島に適応し飛翔できなくなった鳥は、人間の影響により生息にダメージを受けやすいのも事実。
ヤンバルクイナはなぜ飛べないのか?という疑問を持った方が、ヤンバルクイナの保護に少しでも関心を向けていただけたら幸いです。