モズ

モズの高鳴きは秋のはじまり

「キィ キィ キチキチキチ…」と、モズの声が聞こえると、秋のはじまりを感じます。これは「モズの高鳴き」といって、9月~11月頃にかけてモズが激しく鳴き、縄張りを主張する時の鳴き声です。オス・メス関係なくこの高鳴きを行い、縄張を確保したモズは単独で冬を越します。2月頃から繁殖を開始し、4月中旬頃までヒナを育てます。

モズの「はやにえ」と、不吉な鳥としてのイメージ

モズといえば「はやにえ」。「はやにえ」とは、モズが、捕まえた獲物を木の枝や有刺鉄線など尖ったものに突き刺す習性のことです。「はやにえ」を、漢字では「早贄」あるいは「速贄」と書きます。これは「秋に初めての獲物を生け贄として捧げた」との言い伝えによるものです。

はやにえの獲物となる生き物は、バッタやカマキリ、カエルやトカゲ、魚、小鳥やネズミ・モグラなどさまざまな小動物。

モズがはやにえを行う理由は、

  • 餌の少ない冬のための保存食の役割であるという説
  • ワシやタカと比べ足の力が弱く獲物をつかんで食べることができないモズが獲物を固定する手段として枝などに刺すという説
  • ただ本能的にとらえて突き刺す習性があるという説

など諸説ありました。

しかし近年の研究で、はやにえをたくさん食べたオスほど繁殖期のさえずりの質が高まることで声が周囲によく響き、メスを獲得しやすくなる、ということがわかりました。はやにえは、オスによるメス獲得競争のための栄養源であるというのが、現在の有力な説です。

人間から見ると残酷に見えるはやにえの習性から、日本では「凶鳥」とされ「モズの鳴く夜には死人が出る」という言い伝えがあります。またヨーロッパにおいてもモズのことを、イギリスでは「屠殺鳥」、ドイツでは「絞め殺す天使」などと、不吉な呼び方をしています。

大河ドラマでも、不穏な場面をモズの「高鳴き」で表現することがあります。

モズのはやにえ
トカゲをはやにえにするモズ

モズは猛禽類?

モズは大きさはスズメより一回り大きいくらいの小型の鳥ですが、くちばしは鋭く曲がっており「小さな猛禽類(もうきんるい)」といわれます。

一方で、「モズは猛禽類か否か?」について、意見が割れることがあります。「猛禽類とはワシ・タカ、フクロウのことであって、モズは猛禽類に含まれない」と言う人もたまにいます。

しかし、そもそも「猛禽類」という分け方自体が、現代において分類学的に適切ではありません。

18世紀、スウェーデンの博物学者で分類学の基礎を築いたカール・フォン・リンネは、ワシタカ類、ハヤブサ類、フクロウ類、モズを、猛禽類としてまとめました。

その後、分類学の研究が進み、リンネの時代とは生物の分類が変わっています。

現代では、「タカ目(ワシタカ類)」と「フクロウ目」は割と近縁なグループとされているのですが、最近までタカの仲間とされていたハヤブサは「ハヤブサ目」とされ、タカ目より、インコ目やスズメ目に近いグループに位置付けられました。

ちなみに、モズは「スズメ目」です。

つまり猛禽類とは、分類学的な区分ではなく、鋭い爪と嘴を持ち他の動物を捕食・または腐肉食する習性のある鳥類の「総称」です。ですから「モズは猛禽類か否か?」には、明確な答えはありません。普通はタカ・フクロウ・ハヤブサのことを猛禽といいますが、モズを猛禽といっても間違いではないでしょう。

猛獣(もうじゅう)といって連想するのは普通はライオンや虎やクマだが、チンパンジーやゾウも猛獣ともいえる。これと同じことです。

鳥類の分類・進化系統図については、「BIRDER 2021年10月号」で見開き6ページに渡り、美しい博物学イラストのわかりやすい進化系統図を掲載しているので、興味のある方はぜひ。

『ちいさい秋みつけた』作詞者が病床からみつけた「秋」、モズの声

童謡「ちいさい秋見つけた」の1番にも、鳴くモズが登場します。

誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
小さい秋 小さい秋 小さい秋 みつけた
めかくし鬼さん 手のなる方へ
すましたお耳に かすかにしみた
呼んでる口笛 モズの声
小さい秋 小さい秋 小さい秋 みつけた

(『ちいさい秋見つけた』1番の歌詞より引用)

作詞者のサトウハチローは、3歳の時、熱湯で大やけどを負いその後遺症から数年間病床に伏せっていた。布団の中で寝ながら耳をすますと聞こえてくる、外で遊んでいるほかの子供たちの声をうらやましく感じた。そんな子供たちの声と共に聞こえてくるモズの声で「秋」をみつけた。

サトウハチローの幼少時の体験を元にうたわれた歌詞なのです(歌詞の意味・解釈は所説あります)。

凶鳥としての言い伝えがあるモズですが、実際には人間に害を与えるようなことはない、見た目もかわいらしい小鳥です。

モズが鳴き始めるころは、木の葉もちょうど色づく頃ですが、モズの声により秋を耳でも感じられます。近現代の人々にとっては、秋の里山の風物詩としてのイメージの方が大きいかもしれませんね。