オットンガエル(両生網 無尾目 アカガエル科 Babina subaspera)

オットンガエル 奄美大島 種の保存法 天然記念物
オットンガエル(奄美大島 6月)

基本データ

和 名:オットンガエル
分 類:両生網 無尾目 アカガエル科 Babina subaspera
大きさ:頭胴長9~14cm
分 布:奄美大島、加計呂麻島
・環境省レッドデータブック:絶滅危惧ⅠB類(EN)
・種の保存に関する法律に基づく国内希少野生動植物種
・鹿児島県指定天然記念物
・奄美市・大和村・宇検村・瀬戸内町・龍郷町 希少野生動植物

大きなカエル「オットン」

奄美の方言

オットンとは奄美の方言で「大きなカエル」の意味。実際、オットンガエルは外来種のウシガエルをのぞくと日本最大級のカエルです。

徳之島(オットンガエルが生息していない)の方言では、大型のハナサキガエルのことを「オットン」と呼ぶので、もし徳之島の人がオットンと言っていた場合、混乱しないように注意が必要です。

ヒキガエルのような体格だが、身体能力は抜群

本土のヒキガエルに匹敵する体格で、そのイボのある姿から、一見ヒキガエルの仲間のようにも見えます。

しかし、身体能力抜群のアカガエルの仲間らしく、ジャンプが得意。後ろ足の力が強く、近づくと、優れた跳躍力を使いひとっとびで逃げていきます。

飛び出しナイフガエル、必殺の親指

第5の指

普通、カエルの前足は4本の指しかありません。しかしこのオットンガエルは、人間でいうと親指に当たる位置に第5本目の指があります。

この前足の5本目の指は拇指(ぼし)といい、この中には鋭いトゲのような骨が隠されています。

不用意につかむと、これに刺されて流血してしまうこともあります。

フリックナイフ・フロッグ

世界的にもこの珍しいカエルは、海外の著作やメディアでも度々紹介されるようです。

オットンガエルの親指のトゲを「dagger(ダガー・短剣)」と表現したり、また、オットンガエルのことを「フリックナイフフロッグ(飛び出しナイフを持つカエル」と呼んだりと、世界の研究者や両生類好きからも、その独特の形質が注目されているようです。

ナショナルの海外サイトで紹介されていたので、リンクを貼っておきます。

「飛び出しナイフガエルの、必殺の親指」(ナショナルジオグラフィック)
nationalgeographic.org 「The Deadly Thumbs of Japanese Flick Knife Frogs」

危険な親指の使い道は?

さて、この危険な親指は、何に使われるのでしょうか?

その用途は謎に満ちていましたが、どうやら繁殖を巡るオス同士の戦いに使われるのではないか?と、近年の観察によりわかってきました。

すでに抱接しているペアに、別のオスが乱入する際、この親指の飛び出しナイフを使い、相手のオスのボディを抑え込み、メスを奪い取るのです。

実際、オスの脇腹や背中にはたくさんの傷がついていることからも、この指が闘争に使われている可能性は高いでしょう。

オットンガエルを観察するには?

オットンガエルは、環境省レッドデータブック絶滅危惧ⅠB類(EN)と、絶滅が心配されているカエルです。森林の開発による減少、林道開発による生息地の分断により、特に近年激減しています。

しかし、執筆現在(2019)、出会うのはまだ難しくなく、雨上がりの林道にはたくさんのオットンガエルが現れます。同じく奄美固有種で絶滅危惧種のアマミイシカワガエルに比べると、出会いやすい印象があります。

繁殖期の4月の終わりから8月、地形図やGoogleマップを頼りに、渓流付近の山地の林道に行けば、大抵観察することができるでしょう。特に7~8月の夏場が繁殖期のメインになります。

渓流に現れたオットンガエル(奄美大島 6月)

 

道路上に出てきたオットンガエル(奄美大島 6月)

オットンガエルのオタマジャクシ

オットンガエルは、繁殖期の4月下旬~8月頃に、沢などの近くに幅30cmほどの穴を掘り、800~1300個ほどの卵を産みます。

自分で穴を掘る以外にも、水たまりや、排水溝の集水桝の溜まりに産むこともあり、奄美の森のあらゆる水域で、その卵やオタマジャクシを観察することができます。

絶滅が危惧される希少なカエルでありながら、繁殖期の奄美の森に入れば、卵~オタマジャクシ、巨大な成体と、オットンガエルのすべての世代を観察することも、そう難しくはありません。

オットンガエルのオタマジャクシ。奄美大島にて。種の保存法。
オタマジャクシ(幼生)
オットンガエルの尾のある幼体。奄美大島にて。種の保存法に指定されている。
尾のある幼体
オットンガエルの幼体。奄美大島にて。種の保存法に指定されている。
上陸した幼体

希少な生き物なので観察にあたっては法やマナーを遵守し、また森を歩く際にはハブに噛まれないように気を付けながら、この存在感抜群の不思議なカエルを観察しに、奄美のフィールドに入ってみてはいかがでしょうか?