ニホンアカガエルとヤマアカガエルの見分け方、声、卵、生息地、繁殖期についての解説

水辺が静まりかえっている真冬の時期に突如として現れ、繁殖活動をするニホンアカガエルとヤマアカガエル。にぎやかに鳴きかわし、そして、一週間もたたないうちに去っていき、真冬の水辺は静けさを取り戻します。

これらニホンアカガエルとヤマアカガエルは、見た目や繁殖期などよく似ているのですが、全くの別種です。そんな2種を見分けるポイントや、繁殖期について説明します。アカガエル観察の参考にしていただければ幸いです。

記事の後半では、「なぜ寒い時期にあえて繁殖するのか?」「ニホンアカガエルとヤマアカガエルは交雑しないのか?」といった、ちょっと専門的な話題にも触れます。

アカガエルの見分け方(背側線)

ニホンアカガエルは目の後ろの線(背側線・はいそくせん)がまっすぐでハッキリしているのですが、ヤマアカガエルは途中で曲がっていて、またその曲がった部分がハッキリと見えない個体もいます。

ニホンアカガエル
ニホンアカガエル 背側線がまっすぐで、くっきりしている。
ヤマアカガエル
ヤマアカガエル 背側線が曲がっていて、くっきりしていない。
ヤマアカガエル
ヤマアカガエル 背側線が曲がっている。

「線がまっすぐなのはどっちだっけ?」などとわからなくなる場合は、「線がヤマのような形の方がヤマアカガエル、そうでないのはニホンアカガエル」などとゴロ合わせで覚えおけば忘れないでしょう。

個体によってはわかりにくい場合もありますが、たくさんのヤマアカガエル・ニホンアカガエルを観察していけば、だいたいぱっと見てわかるようになります。あと、全体的にニホンアカガエルの方が体色が明るく、ヤマアカガエルの方が濃い茶色の個体が多いように感じます。

声の違いと、鳴のうの有無

繁殖の際に鳴く声は、ヤマアカガエルは「ニャニャニャニャン、ニャニャニャニャン」と甲高くちょっとカエルらしくない声で遠くまでよく通る大きな鳴き声、ニホンアカガエルは「キュクククク…」とこもるような声です。ヤマアカガエルは立派な鳴のう(カエルが鳴くときにふくらませる、ほおやアゴの袋)がありますが、ニホンアカガエルにはありません。

ヤマアカガエル
鳴のうをふくらませ鳴くヤマアカガエル。ニホンアカガエルには鳴のうは無い。

ニホンアカガエルとヤマアカガエルの鳴き声がわかる動画をリンクしておきましたので、参考にしてください。

卵の違い

ニホンアカガエルの卵
ニホンアカガエルの卵塊(らんかい)
ヤマアカガエルの卵塊(らんかい)

数百~数千の卵の集まりのことを「卵塊(らんかい)」といいます。この卵塊の形状が、ニホンアカガエルとヤマアカガエルでは異なります。

ニホンアカガエルの卵塊は大人が片手で持てるくらいのかたまりになっており、手で持っても形状を保ちプリプリとしています。

ヤマアカガエルの卵塊はあまり形状を保っておらず流動的で、手で持つとヌルヌルと手から滑り落ちていきます。

ニホンアカガエルの卵
ニホンアカガエルの卵は持っても形を保つ
ヤマアカガエルの卵
ヤマアカガエルの卵は持つとヌルヌルとこぼれ落ちる

ただ、産卵してから時間が経つと、ニホンアカガエルの卵も水を吸って形状が崩れて、さらにどちらの種の卵も周囲の泥をまとってくるようになり、区別しにくくなります。ひとつの卵塊にはニホンアカガエルは500~3000個ほど、ヤマアカガエルは1000~1900個ほどの卵が入っています。

生息地

アカガエルの生息地
ニホンアカガエル、ヤマアカガエルが繁殖する環境

ヤマアカガエルは主に山地や森林、ニホンアカガエルは平地の草地や湿地に生息しています。ヤマアカガエルは繁殖期の時に湿地に降りてきて、繁殖期が終わると山や森林に戻っていきます。ニホンアカガエルは繁殖地の水辺周辺で繁殖期が過ぎても暮らしています。

「ヤマアカガエルが山地、ニホンアカガエルが平地」と完全に分かれているわけではなく、同じ場所に2種が棲んでいる場合もよくあります。ニホンアカガエルは山地には少ないですが、ヤマアカガエルは山地だけでなく丘陵や平地の森などにも住んでおり、このようなところは2種が同じ場所で見られます。

繁殖期

どちらもほぼ同じ時期に繁殖しますが、同じ地域だと若干ニホンアカガエルの方が早いことが多いようです。四国九州では12月中、近畿では1月、関東周辺では2月~3月、東北地方では4月と、温暖な地域ほど早く繁殖期を迎えます。

冬から春にかけての日本列島の湿地はまさに「アカガエル前線北上中」といった様子です。

また、同じフィールドエリアにある水域でも、日当たりなど各種条件で、水場によって繁殖開始のタイミングが違います。

繁殖開始の条件は、気温条件に加え、降雨がスイッチとなります。気温・降雨は毎年違いますから、繁殖期の訪れも毎年違ってきます。

アカガエルの繁殖期間のピークは各地域一週間足らずですので、アカガエルの繁殖を観察したい場合は、繁殖期になったら何度もフィールドに足を運んでチェックする必要があります。

まずはその地域の平均的な繁殖期を把握し、その上で、降雨のタイミングでチェックしてみると良いでしょう。

なぜ、寒い時期に繁殖するのか

寒い時期の繁殖活動には、リスクが伴います。アカガエルは低温に強く、人間が5秒も手をつけていられないほどの冷水の中で繁殖活動のため泳ぎまわっていますが、しょせんは変温動物。寒さで死んでしまうこともあります。またこの時期は食べるエサの昆虫もいません。生んだ卵が、凍結して死滅してしまうこともあるくらいです。

このため、アカガエルは気温が上がり雨が降ったチャンスに、冬眠から目覚めて繁殖行動をすばやく完了し、そしてまた冬眠に戻り、本当の春を待ちます。

しかし、わざわざリスクのある冬に冬眠から目覚めて繁殖活動をする理由は何なのでしょうか。これには主に2つの理由が考えられます。

1つ目は、寒い時期には天敵となるヘビや、幼生の天敵となる水生昆虫がいないため、という理由です。

敵の少ない季節では、繁殖行動や幼生の成長が有利になります。また、他のカエルの繁殖期とずれるので、他の種のオタマジャクシとの生息空間が重なることを避けられる、というのもあります。

2つ目は、「アカガエルは北方起源のカエルであり、卵の胚が暑さに弱い」という理由です。

アカガエル類は、他の種類のカエルと比べて高い水温であると、卵が孵らないことが実験でわかっています。

これら2つを総合すると「もともとアカガエルは寒冷地起源の種族であるため、卵が暑さに弱く、寒い時期の繁殖の方が適している。さらに、そのことが敵やライバルが少ない時期に繁殖するという有利さとして働いている」となり、これが、アカガエルが冬に繁殖する理由です。

補足1:アマガエルやトノサマガエルなど、気温が高くエサが豊富な春・夏に繁殖するカエルは、繁殖期が短いアカガエルとは対照的に、繁殖期が長いです。

補足2:沖縄にはリュウキュウアカガエルという南方系のアカガエルがいるのですが、このアカガエルは、平地でも繁殖する本土のアカガエルとは違い、水温の低い山地の源流部でのみ繁殖します。沖縄は気温が高いため、源流部の冷たい水でないと、卵が高温に耐えられないからです。もともと北方系のカエルであるアカガエル属のうち、南の島に進出したグループが源流部に棲むように進化・適応したのです。

アカガエル同士、両種は交雑しない?

同じ水辺で繁殖し、繁殖期も近いなら、ニホンアカガエルとヤマアカガエルは同じアカガエル同士なので、交雑してしまいそうな気がしますが、まず、鳴き声が違うので誤って別種の異性と包接することがほとんどありません。

そして、両種は遺伝的にもかなり離れており染色体の数も違うので、もし交雑が起きても雑種にはならないか、繁殖能力の無いオスしか生まれないことが実験からわかっています。

これらアカガエル2種間の距離関係は、他の動物に例えると(あくまでざっくりとしたイメージとして、ですが)、馬・ロバの雑種(ラバ)、ライオン・ヒョウの雑種(レオポン)は、繁殖能力がほぼ無いですから、種としては、だいたいそれらくらいの関係と捉えると感覚的にわかりやすいかなと思います。

ちなみにニホンアカガエルは、本州・四国・九州に分布していますが、西日本と東日本の集団間は遺伝的に異なり、両者を交配させると高確率で繁殖能力の無いオスが生まれるという実験結果が出ています。ですので、今後の研究でニホンアカガエルもさらに2種類(または3種類)に分かれる可能性があります。

その際、東日本のニホンアカガエルは「マンテルスアカガエル」と命名される可能性があります。いきなりでてきた横文字種名に、いったいなんのことだと思われる方もいるでしょうが、「マンテルスアカガエル」とは、1886年にベルギー出身でイギリスの動物学者ジョージ・アルバート・ブーレンジャー(George Albert Boulenger)により、江戸(東京)で採集された標本で記載された種名です。この標本は大英博物館が所蔵しており、以前は正体不明の謎のアカガエルの標本でしたが、日本の研究者がニホンアカガエルとそっくりな特徴を持っているとのことを発見しました。今後の研究によっては、関東や東北のニホンアカガエルはマンテルスアカガエルになる可能性もあります。日本の動物学史草創期のロマンを感じられる種名であると、筆者は思います。

参考文献

この記事は筆者のフィールドワーク経験に加え、以下の文献を参考に、執筆しています。いずれも第一級の研究者や知識人、写真家によって制作されていますので、より知識を深めたい方は、以下の書籍をご覧になることをおすすめします。