2月の東京檜原村・秋川渓谷、標高約350mの地点。川に手を入れると、数秒で手の感覚が無くなってしまうくらい冷たい。そんな中で元気に動き回り繁殖活動に勤しむ生き物がいます。ナガレタゴガエルです。
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ナガレタゴガエルとは
ナガレタゴガエルは、皮膚がブヨブヨにたるんで水の中で繁殖する姿が有名で、たびたび動物番組などでも紹介される、不思議なカエルです。
1978年に発見され、学名がつけられたのは1990年と、ごく最近知られるようになった種。生息地が限られていて、関東から中部の山間部だけに棲息していたため、人目に触れることも少なかったのでしょう。
このカエルは繁殖期になると、オスは皮膚が伸びてブヨブヨな姿になります。これは、繁殖活動中ずっと水中にいるため、皮膚呼吸を行う際に皮膚の表面積を広げることで、酸素をより多く取り込むことができるからです。
ナガレタゴガエルは、普段は森林で生活していますが、晩秋になると渓流に降りてきて、水中の石の下で冬眠します。そして、水温が4℃を超えるようになると、冬眠から覚めて繁殖活動をはじめるのです。東京西部の山だと、年によって異なりますが、概ね2月中旬くらいがピークですね。
ナガレタゴガエルを探しに行こう!!
さて、そんなナガレタゴガエルを求めて、2月25日、生息地である桧原村を流れる秋川の支流の沢に入りました。現地についたのは15:00。事前に調べて、ナガレタゴガエルが生息するという最低限の知識を得てから来たものの、初めてのフィールド。どこにカエルがいるかもわからず、また暗くなる前に山から出たいので、速足で沢を登っていきます。
沢は平均して幅3mほどで、急斜面でもなく、岩が多いものの歩きやすい。まだ雪の残る早春の時期も美しいですが、植生も豊かで開放的で、新緑の季節にも来てみたいと思わせるような沢。そんなことを考えているうちに、流れが緩やかで深さのある渕にたどり着きます。このような場所は、ナガレタゴガエルの繁殖場となるのです。
ヤマメに抱き着くナガレタゴガエル
ナガレタゴガエルのオスは、目の前に来る動くものをなんでもメスだと思って抱き着いてしまいます。オスガエルだろうが、別の種類の生き物だろうが。オスガエルの場合は、自分はメスでないということを知らせる鳴き声を発することができるので難を逃れることができるのですが、魚の場合はそれができないので、カエルに抱かれたままで、離してもらうのは困難なのです。
カワネズミ
この日、写真には撮れなかったのですが、ナガレタゴガエルのいる淵でカワネズミが泳いでいるのを見ました。何かくわえているようにも見え、もしかしたらナガレタゴガエルだったかもしれないですが、確認はできませんでした。
カワネズミとは、渓流に住む食虫類(モグラの仲間)の一種で、カワウソのように水を泳ぎ回って魚を捕らえて餌とする動物。繁殖のためにたくさん集まり、動きもさほど早くないナガレタゴガエルは、カワネズミの格好の餌食となります。ナガレタゴガエルにとってはカワネズミは脅威となることでしょう。
一方、カワネズミにとっては、食べ物の少ない冬季において、たくさん食べ物が確保できるナガレタゴガエルの繁殖活動はとてもありがたいものである。
大量のナガレタゴガエル発見!!
奥に進むと、たくさんのナガレタゴガエルがいました!特別に、水中を撮るための準備をしてきたわけではないので、防水カメラを一脚に着けて、インターバル撮影(指定した時間おきに自動的に撮影する機能)や動画撮影のモードにして、カメラをカエルに近づけて撮影。
近くにいたカエルは、直接手でカメラを持って水中撮影もしたが、水が非常に冷たいので、手を水に10秒もつけていると、手の感覚がマヒしてしまうほどでした。こんな冷水の中でずっと繁殖活動をしているとはとても信じられないですね。
地上では聞こえませんでしたが、後々、動画を確認してみると、グググ、グググと鳴き声が入っていた。他のカエルを追いかける姿や、ヤマメに抱き着こうとしている姿も見られました。
本州でも局所的な渓流のみに生息し、繁殖期にはブヨブヨの独特な姿をし、そしてオタマジャクシは餌を食べずに卵黄を栄養分としてカエルまで成長するなど、特異な生態を持つナガレタゴガエル。
寒々しく生き物の気配のしない沢なのに、水中では、ナガレタゴガエルが賑やかに繁殖活動・・・。なんとも不思議な感覚に包まれました。