宮古島の生き物たち ~爬虫類・両生類を探す旅~

宮古島の概要

爬虫両生類情報交換会 宮古島観察会
日 程: 平成30年7月27日~29日
参加者: 4名

宮古島は沖縄本島から南西に300キロ、東京から約2000キロの位置にある島。沖縄の離島では3番目に大きい。離島とはいえかなり広く、東京23区の3分の1くらいの面積があり、車がないと島めぐりは難しい。島の地形は平たんで山や森も少なく、大きな河川もなく、住民の生活用水は地下水に頼っているような、水域が少ない島だ。

宮古島の地図
宮古島は沖縄本島から800km
宮古島の地図およびマップ
宮古島の地図
宮古島の地形を航空写真で見る
宮古島の地形を上空から

宮古島の爬虫両生類

宮古島は、爬虫両生類の生息環境として適している森や水域が少なく、豊かな森と多数の川を有する西表島、奄美諸島、沖縄本島などに比べて、魅力に欠けるイメージがある。

特に「ハブがいない」ということに、物足りなさを感じる人も多いだろう。たしかに、安心して夜間の森を探索できる。しかし、南西諸島の夜の森をハブに怯えながら歩く時の、蒸し暑さの中で冷や汗をかくほどの、あの「心地良い恐怖感」が皆無なのだ。

しかし、実は宮古島には、意外にも宮古島固有種が多い。ミヤコトカゲ、ミヤコカナヘビ、ミヤコヒバァ、ミヤコヒメヘビ、ミヤコヒキガエル…。さらに、固有種が宮古島のみに棲息するようになった経緯が謎めいていることもあり、決して無視できない島なのである。

宮古島市熱帯植物園

空港で集合し、レンタカーを借り、最初に訪れたのが宮古島市熱帯植物園。宮古島の中では珍しく森が広がっており、水域もあるフィールド。

宮古島市熱帯植物園
宮古島市熱帯植物園

園内は、我々のような人種のみならず、普通の人間も楽しめるような開けた原っぱに散策路が敷かれ、道の脇にはトロピカルな雰囲気の木々や花々が植えられている。

サキシマキノボリトカゲ

歩いて数分、最初に現れたのは、おなじみのサキシマキノボリトカゲ。普通種で、これから何度も見かけることになるのだが、一発目の生き物は人気で、メンバーが集まり夢中でカメラのシャッターを切る。

サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ

南方の美しい蝶たち

遠路を歩いていると、花にはたくさんの美しい蝶が集まっている。シロオビアゲハが一番よく見られた。

シロオビアゲハ
シロオビアゲハ

シロオビアゲハの紅紋型と言われる、有毒のベニモンアゲハにそっくりの姿に擬態したタイプの個体も見られた。

シロオビアゲハ(紅紋型)
シロオビアゲハ(紅紋型)

また、ナミエガエルの名の元となった動物学者の浪江元吉の名がついたナミエシロチョウや、ミナミキチョウなど、数多くの蝶が見られた。南西諸島の蝶は鮮やかで美しく、つい見入ってしまう。

ナミエシロチョウ
ナミエシロチョウ
ミナミキチョウ
ミナミキチョウ

余談だが、我々両爬愛好家からすると憧れの地である南西諸島も、蝶愛好家からすると、それほどでもないようだ。なぜなら、このように公園に行けば大方の南方の蝶を、しかも年中見ることができてしまうからだ。そんな彼らに一番人気があるのは、高山蝶。やはり、行くまでの道も険しく、ほんの一時期しか見られない、なかなか見られないレアなモノに、引き付けられるということだろう。

もちろん今回の我々の旅も、我々にとってのそんな種類(サキシマバイカダ、ミヤコトカゲ等々…)が目的であることは、言うまでもない。

日本最大のクモ・オオジョロウグモが鳥を捕食!!!…?

オオジョロウグモは、網を張るクモとしては日本最大種。巨大な分、網も大きく、直径2メートルほどの巣をつくる。巣の糸は非常に強く、糸でタモ網をつくってフナ程度の魚を救うこともできるという。

オオジョロウグモ
オオジョロウグモ

熱帯植物園をしばらく歩いていると、オオジョロウグモの巣がいくつかあった。しかしその中で、何か餌がひっかかっているように見える巣があった。かなり大きいものが引っかかって動いている。

近寄って見てみると、なんと小鳥がかかっていた。
鳥はサンコウチョウのようだ。

オオジョロウグモの巣にかかったサンコウチョウ
オオジョロウグモの巣にかかったサンコウチョウ

ただサンコウチョウはまだ巣立ちビナのようで、飛ぶ力も弱くひっかかってしまったようだ。しかしオオジョロウグモも、サイズが小さい個体で、サンコウチョウを捕食できるほどの大きさが無く、巣を破壊されて困惑している様子だった。

自然界の営みに安易に手を出すべきではないかもしれない。しかし今回は「双方に利無し」と判断し、鳥を助けてあげることにした。

サンコウチョウ救出大作戦

ウエットティッシュを使って少しずつ丁寧にクモの糸をとったが、かなりからみついてしまっていて、なかなか糸をとってやることができなかった。

サンコウチョウを救出
サンコウチョウを救出

これは素人には難しいだろうと、島の獣医に助けを求め、かたっぱしから電話してみたが、みんな冷たいもので、対応してくれるところが無かった。

唯一市役所の担当は、色々調べてくれたが、救出する策は得られず。

だが、そうこうしているうちに、なぜかサンコウチョウが羽ばたいて、飛んでいった。多少なりとも糸をとってあげたので、自力で糸を振り切ることができるようになったのかもしれない。

サンコウチョウは、振り返ることもなく、森に消えていった。

オオジョロウグモの巣にかかった鳥(YouTube)

いよいよ本番、夜の探索!ちょっとその前に…

夜。昼間に歩いた熱帯植物園に向かう。南西諸島のフィールドは夜が本番。

…と、ちょっとその前に一杯。収獲成功祈願の盃。

ビールとおつまみ

ビールに泡盛、沖縄料理…。ちょっと一杯とはいかず、これから夜の森を歩くというのに、泥酔とまではいわないまでも、結構飲んでしまった。

しかし、こんな余裕をカマせるのも、宮古島だからこそ。

闇に嘯くホンハブが目を光らせる奄美やヤンバルの森を、とてもこんな千鳥足で歩く気は起らない。

色々な両爬に出会う夜の探索

まず目についたのは、ミヤコヒキガエル。ニホンヒキ・アズマヒキに比べると色が淡く、なんとなく陶器の置物のような美しさがあるカエル。踏んでしまうほどたくさんの個体が見られたが、その名の通り宮古島の固有種(南大東島や沖縄本島に移入)で、宮古島市の条例で捕獲は禁止されている。

ミヤコヒキガエル
ミヤコヒキガエル

ヤエヤマイシガメ。名前の通り八重山諸島つまり石垣・西表・ヨナグニの種なので、宮古島産のものは移入種。1mほどの道端の水たまりにつかっていた。

ヤエヤマイシガメ
ヤエヤマイシガメ

その他、ホオグロヤモリやミナミヤモリなども現れ、夜のフィールドを満喫した。

ホオグロヤモリ
ホオグロヤモリ
ミナミヤモリ
ミナミヤモリ

珍蛇サキシマバイカダ 降臨

しばらく林道を歩いていると、メンバーの一人が叫んだ。何かを発見したらしい。皆、急いで近寄ってみると、なんとサキシマバイカダだった。

サキシマバイカダ
サキシマバイカダ

サキシマバイカダ自体、簡単には出会うことができないヘビであるが、宮古島では他の生息地(石垣・西表)より出会うことが少ないらしい。また宮古島自体、奄美・やんばる・八重山に比べてどうしても訪れることが少ない島なので、その意味でも今回の収穫はとても貴重なものとなった。

「サンコウチョウを助けた善行が、運を呼び起こしたのかな?」 そんな雑談をしながら、帰路についた。

2日目 西平安名崎にミヤコトカゲを求めて

翌日。昨夜にサキシマバイカダの収獲があり乗りに乗っているところで、今度はミヤコトカゲを探しに。以前、ミヤコトカゲを見たという西平安名崎に向かった。

ミヤコトカゲはスベトカゲの仲間で、見た目は地味だが、海辺を棲息地にしているトカゲは世界的に見ても少ない。またミヤコトカゲは、台湾やフィリピンから東南アジア、太平洋の島々や海岸沿いにも住んでいるが、日本ではなぜか八重山諸島を飛ばして宮古島だけに住んでいる。このようにミヤコトカゲは、生態的に珍しく、生物地理的にも不思議なトカゲなのだ。

西平安名崎
西平安名崎

そんなミヤコトカゲが住む場所は、上の写真のような岩場。非常に岩が鋭く、サンダル等ではとても歩けないような地形で、ゴム長ぐつでも、岩にぶつけると破れてしまいそうな場所。そんな人にとって歩きづらい岩の、さらに海に面した岩の側面にミヤコトカゲは身を隠すので、捕獲や撮影がなかなか難しい。1時間ほど探していたが、この日はミヤコトカゲを見ることはできなかった。

宮古島の小離島・池間島

次は、宮古島の小さな離島、池間島に向かった。ここにはラムサール条約に登録されている「池間湿原」がある。

宮古島・池間島にある池間湿原
池間湿原

展望台が設置されており、ここから湿原を眺めることは可能だが、湿原には入ってはいけないので、周辺の草むらで生き物探しをすることにした。

宮古島・池間島の池間湿原での生き物観察
池間湿原周辺で観察

まだ未記載種のカラスハエトリの一種や、クワの葉をかじるためゾウムシなのに鼻(口吻)が短く進化したオキナワクワゾウムシ。トノサマバッタより大きなタイワンツチイナゴなど、多様な昆虫が生息していたが、両生爬虫類に出会うことはできなかった。

カラスハエトリの一種と思われるハエトリグモの仲間
カラスハエトリの一種
オキナワクワゾウムシ。沖縄に棲息するゾウムシの一種。
オキナワクワゾウムシ

この後、別の海岸に行ったもののミヤコトカゲには出会うことができず、夜の収獲にかけることにした。

夜間探索2日目

2日目の夜も、初日と同じく、熱帯植物園を歩く。サキシマヌマガエルが飛び跳ねているのをよく見かけた。また、ヤエヤマオオコウモリ(が多数集まる樹林を観察。

サキシマヌマガエル
サキシマヌマガエル
ヤエヤマオオコウモリ
ヤエヤマオオコウモリ

そして、探索終盤に歩道でサキシママダラに2個体出会った。この日は、初日よりもフィールドに入るのが遅く、12時過ぎまで散策をしていたのだが、初日は11時過ぎに引き上げてしまった。

サキシママダラ(宮古島産)
サキシママダラ

初日は運よくサキシマバイカダに出会えたが、普通種サキシママダラには出会えなかったことを考えると、ヘビを探すにはやはりヘビの活動時間帯に合わせ、早くとも11時、できれば12時、体力が持つなら夜遅くに出かけ明け方まで歩いた方が良い成果が出るのでは?などと、一行は次の観察会に向けて話し合った。

夜の観察。宮古島、宮古島市熱帯植物園にて
夜の観察

帰路

3日目。一行はここで解散となる。

フライト待ちのメンバー2人で、宮古空港周辺にあるささやかな樹林や草むらで、飛行機が来るまでの時間、最後の望みをかけて執念深く探索する。数が減ってしまい、なかなか見られなくなってしまったミヤコカナヘビに最後に出会えるのでは?などと贅沢な夢をみつつ…。

宮古空港
宮古空港

結局、それはかなわなかったが、サキシマキノボリトカゲやミナミヤモリには出会うことができた。自然度の高くない空港周辺で、1時間ほど歩くだけでも、両生爬虫類に簡単に出会うことができる。農地や宅地の多い宮古島とはいえ、さすが南西諸島。少しでも緑があれば、フィールド探索が十分に楽しめることを痛感した。

サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ
ミナミヤモリ
ミナミヤモリ

おわりに

2泊3日という短い滞在で、飲みや観光も交えた観察会ではあったものの、両生爬虫類を中心とした多種多様な生き物を観察することができた。特に、出会う確率の低い宮古島産サキシマバイカダに出会えたことは大きな収穫であった。

2019年の南西諸島観察会が早くも計画され、現段階では「徳之島」の予定だ。単独ではなかなか入りづらい南西諸島の森に仲間と入ることのできる良い機会なので、興味のある方はぜひとも参加していただきたい。

ただし、徳之島はホンハブ生息地で、しかも高密度で生息しており、さらに徳之島産はホンハブの中でも大型で攻撃性の高い個体が多いと聞く。

宮古島観察会のように「宴会の酔い覚ましにナイトフィールド」などというお気楽な観察会にはならないと思うので、その点はお間違いの無いよう…。