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基本データ
• 和名:エルタテハ
• 学名:Nymphalis vaualbum
• 英名:Compton Tortoiseshell
• 分類:チョウ目(Lepidoptera)/タテハチョウ科(Nymphalidae)/タテハチョウ属(Nymphalis)
・分布:北海道・本州中部以北(主に落葉広葉樹林の山地)に分布。東北以南では標高の高い森林域で比較的稀に見られる。
・大きさ:開長60〜65mm
形態の特徴
エルタテハは中型のタテハチョウで、翅の表側は橙褐色を基調に黒い斑があり、前翅付近に白斑をもつ。翅の裏面は落ち着いた茶褐色で、後翅裏中央に 白い L 字形の斑紋 がある。これは和名の由来でもあり、観察時の識別ポイントとなる。
生息環境
エルタテハは落葉広葉樹林が続く山地の林縁や沢沿いなどを好むチョウで、北海道では平地から山地まで見られることがあるが、本州では主に標高が1000 m 以上の地域であることが多い。林縁の日当たりの良い場所で素早く飛ぶ姿が観察される。
生活史
エルタテハは 年1化(1世代/年)で、夏季(7〜8月頃)に成虫が羽化する。成虫は成虫で越冬し、翌年春まで姿を見ることがある。空気が冷たくなる頃まで活動することから、秋の終わりに越冬態勢に入る個体も見られる。
食性・行動
成虫は花の蜜だけでなく、樹液、果物、地面の水分、樹皮の汁 などを餌とする。林縁部や開けた場所で、アザミ類などの花に集まる姿が見られるほか、樹液や果汁などに止まって吸汁することもある。
幼虫はニレ科やカバノキ科の樹種(ハルニレ、シラカンバ、ダケカンバなど)を食草とし、群れを作って枝上で育つ。成虫越冬は、寒冷な環境の季節変化に適応した生存戦略である。
似た種との比較
エルタテハと似た種として シータテハ がいる。両者は後翅裏面の白斑が識別点で、シータテハでは白斑が C 字状 になるのに対し、エルタテハでは L 字状 であることが名前の由来となっているとされる。
森林環境の変化と保全状況
エルタテハは落葉広葉樹林を主な生息環境とするが、各地で広葉樹林の減少や人工林への転換が進み、生息環境の連続性が失われてきた。特に本州中部以南では分布が限られ、局所的な個体群は森林構造の変化の影響を受けやすい。
人工林では単一樹種が多く、幼虫の食草となるニレ科・カバノキ科の樹木が乏しい場合がある。また林床の光環境や下層植生の変化も、成虫の活動や吸蜜環境に影響を与えると考えられる。こうした森林の単純化は、山地性のタテハチョウ類にとって生息条件を狭める要因のひとつである。
地域によってはレッドデータブックに掲載される所もあり(東京VU・新潟NT・富山DD)、分布の縮小や個体数の減少が指摘されている。一方で、広葉樹林が保全・再生された地域では安定した個体群が確認される例もある。
エルタテハの生息状況は、単に一種の増減というより、落葉広葉樹林の質と広がりを映す指標のひとつといえる。
フィールドでの観察メモ
私が観察した個体(撮影個体)は、林縁のフジバカマが多い開けた草原で吸蜜していたものだ。木陰と日向を敏捷に行き来していた。
エルタテハの生息地は限られ、また生息密度も高くないため、貴重な出会いだった。撮影時には、翅を広げ日光を浴びる姿が多く観察できた。
謝辞
本種の観察・撮影にあたっては、蝶の恩師 霧島緑氏にフィールドを案内していただいた。本種の生息環境や生態などについて教えていただいたことに感謝したい。
参考文献
• 環境省 レッドリスト(最新版)
• 東京都・新潟県・富山県県版レッドデータブック
• 日本チョウ類保全協会 編『日本のチョウ』






