トウキョウサンショウウオ

トウキョウサンショウウオ

分類  両生網 有尾目 サンショウウオ科 サンショウウオ属
学名  Hynobius tokyoensis
大きさ 全長8~13cm
分布  関東地方と福島県の一部
すみか 丘陵地の林床
食べ物 小昆虫・小動物

早春の丘陵地の水域で

早春の関東地方は、トウキョウサンショウウオを観察をするチャンスです。関東地方ですと、2月下旬~3月くらいまでが繁殖期。

繁殖に集まった成体や卵のうを観察できます。

サンショウウオの仲間は、普段は隠れていて成体を滅多に見ることができないですが、繁殖地に集まる早春は観察する良い時期です。

また、不思議な形をした美しい卵のうも、観察することができます。

トウキョウサンショウウオの卵のう

トウキョウサンショウウオの生息地

サンショウウオの仲間の多くは、涼しく多湿な環境を好みます。

そのため、山地が多く降水に恵まれ冬は厳しい寒さとなる日本は、サンショウウオの棲息に適しているようです。

「サンショウウオ大国・日本」と称されるほど、日本には多種類のサンショウウオが生息しています。

サンショウウオの仲間は、以下の2つに大きく分けることができます。

  1. 「止水性」…丘陵地の湧き水や池・沼・田んぼなどに産卵するグループ。
  2. 「流水性」…流れの激しい渓流の源流部で産卵するグループ。

トウキョウサンショウウオは「1.止水性」のグループに属し、関東地方各所の標高300mまでの丘陵地に棲息しています。

トウキョウサンショウウオ生息地
トウキョウサンショウウオの生息する環境

絶滅危惧種・トウキョウサンショウウオ

トウキョウサンショウウオは、戦後から高度経済成長期に開発が進んだことより生息地である里山が減ってしまうことで数を減らしました。

現在では、かつてのような開発ラッシュは無くなりましたが、生息地である田んぼが放棄され乾燥化し、里山が減少してしまい急激に数を減らしています。

また、水辺の生き物を食べてしまう外来種アライグマの影響も深刻です。

トウキョウサンショウウオの捕獲は禁止されているか。

トウキョウサンショウウオは、個人の趣味で飼育するためであれば、基本的には捕獲しても大丈夫です(捕獲できない場合もあり。補足にて後述します)。

トウキョウサンショウウオは令和2年2月より、種の保存法「特定第二種国内希少野生動植物種」(以下「特定第二種」)に指定されています。

この特定第二種とは簡単に言うと「売買や譲渡はNG、個人で採集し飼育する分にはOK」というものです。

もし違反すると「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」という、かなり重い罰則が適用されます。

特定第二種が制定される令和2年より前は、トウキョウサンショウウオの大量の卵のうが乱獲され、オークションサイトに売り出されるなどの問題が起こり、一部生息地が壊滅させられるなどの甚大な被害が発生しました。

これに対し、売買や譲渡は禁止だが個人で採集し飼育する分には問題ない、という特定第二種が作られました。

ここが、この規制のうまいところ。「自然保護団体の保護活動」、「子供たちの興味・関心」、「熱心な愛好家の知的好奇心よる採集・飼育」はそのままに、商売による乱獲などをピンポイントで禁止した、絶妙な規制です。

もしも、自然を愛するサンショウウオ観察者の活動までも規制してしまうと、将来的にトウキョウサンショウウオに興味を持つ人がいなくなってしまうかもしれません。

そうなると、例えば開発などでトウキョウサンショウウオの生息地が破壊されることに危機感を持つような人もいなくなり、トウキョウサンショウウオが守られることがなくなってしまうかもしれません。このあたり、よく考えられています。

補足:トウキョウサンショウウオは、自治体の天然記念物に指定され採集が禁止だったり、また生物の採集自体が禁止の場所もあります。また、法的に禁止されてなくても、保護団体が繁殖地を管理している生息地も多く、採集する場合には事前の確認が必要です。

※「種の保存法」「特定第二種国内希少野生動植物種」について、詳細は環境省ホームページをご覧ください。

国内希少野生動植物種一覧 | 自然環境・生物多様性 | 環境省 (env.go.jp)

トウキョウサンショウウオ
トウキョウサンショウウオ

トウキョウサンショウウオの地域多様性

サンショウウオは、湿ったところでないと体が乾いて生きていけず、またカエルのようにジャンプするなどの陸上における高い運動能力も備えていません。

なので、山や河川などの少しの環境障壁で、遺伝的交流が簡単に絶たれやすい生き物です。

例えばカエルならば、運動能力の高さや繁殖力によって障壁を乗り越えることもできるかもしれませんし、さらに、水辺から離れられるヘビやトカゲなどの爬虫類は、環境障壁を乗り越える力はさらに上でしょう(流木に捕まり海も渡ることすら可能)。

そんなサンショウウオですから、繁殖期以外は穴の中等でじっとしており、低い代謝を利用して、餌が目の前に来るのを待ち来たら食べる、といった生活をしています。

つまり、長い年月が過ぎた場合、運動能力の低いサンショウウオは、環境障壁によって種の分断が起こりやすいのです。

同じ「トウキョウサンショウウオ」という種類であっても、遺伝子レベルで見れば、地域によって微妙に違うグループだったりするわけです。

実際、トウキョウサンショウウオは、遺伝的に「茨城県・福島県」と「東京都・埼玉県・千葉県・栃木県」の2集団に分化していることがわかっています。

つまり、一部の地域のトウキョウサンショウウオが絶滅すると、その地域特有の遺伝子が地球上から消えてしまう可能性があるのです。もしかしたら将来研究が進み、トウキョウサンショウウオが2種ないし数種に分かれるかもしれません。

例えば、西日本に広く棲息していたカスミサンショウウオが2019年、1種だったものが9種にも分かれました。トウキョウサンショウウオも、将来このようなことがある可能性だってあるわけです。

商業的乱獲は、前述のとおり種の保存法により防がれましたが、生息地の破壊など、トウキョウサンショウウオ保全をとりまく環境は依然として厳しい状況です。

トウキョウサンショウウオ

カエル等に比べ、少産少死なサンショウウオ

サンショウウオの仲間は、卵を産む数がカエルと比べて、圧倒的に少ないです。一方、上陸した幼体が成体まで成長できる可能性もカエルと比べて高く、また性成熟も遅いです。

  • サンショウウオは、カエルと比べると圧倒的に卵の数が少ないため増えにくい(例:ヤマアカガエル1000~2000個。トウキョウサンショウウオは50~100個)
  • 上陸後の幼体の生存率は高く、8割は4~5年後の繁殖に参加できると考えられ、野生でも10年以上生きる。カエルのように積極的に出歩かないので死亡率が低く、寿命も長い。
  • トウキョウサンショウウオは性成熟まで4~5年かかる(ヤマアカガエルは1~2年)

つまり、カエルとサンショウウオを比較した場合、カエルは大量に子が生まれ、その一部が生き残って子孫をつなぐ「多産多死型」ですが、サンショウウオは子が少ないが生存率が高い「少産少死型」ということです。

少産少死型は、乱獲や自然破壊などにより個体数が減少することにとても弱いです。例えば、多産多死のカエルは、環境が悪くなり個体数を一度減らしても産卵の総量が多いため、環境条件がよければ一気に増え、サンショウウオに比べれば個体数回復が早いです。

ですが、サンショウウオのような少産少死は、環境が悪くなり一度個体数が減ると、性成熟も遅く産卵数も少ないため、もし環境が良くなっても回復まで時間がかかるのです。

サンショウウオ、と聞くと、生き物のことをあまり知らない人でも「天然記念物」「絶滅危惧種」のように連想することが多いです。おそらく「特別天然記念物・オオサンショウウオ」のイメージが強いからなのでしょう。

しかし実際にサンショウウオ類は、移動能力の低さや産卵数の少なさ、性成熟の遅さという生態的特性ゆえ、環境破壊や乱獲の影響で種や個体群があっという間に絶滅してしまう可能性が高いグループであることは事実です。このことを念頭においた上で、サンショウウオの観察を楽しみましょう。